数日前から水揚げされていることを知っていたんだけど、今夏はじめて目撃しました、シイラでございます。魚偏に暑いと書くこの魚は暖かい海に生息する肉食魚でして、長門市沿岸域では夏の終わりころから晩秋にかけてよく見られます。
顔なじみの仲買さんに、「シイラはじめて見ましたよ~」と話しかけたら、小さな声で、
「シイラっていっちゃいけん、マンサク」。
ん?
そう、このあたりではシイラのことをマンサクって呼ぶんです。知らなかった~(汗;)。
どうしてマンサク、それも漢字で「万作」と決まっていて、シ・イ・ラの文字が入っていない、と、この方に聞いた話です。
長門の農家が「しいら」と呼ぶ不完全な白っぽい状態の米と音(おん)が同じため嫌ってるんですって。一般的にはもみ殻ばかりで実のないことを「しいな(粃)」と呼びますけど、「シイラが大漁(大量)」なんて浜言葉は農家にとって不吉以外の何物でもなく、長門の一部の地域では農業と漁業を兼業してる方もいらっしゃいますから呼び名は大切でございます。
調べてみるとマンサクの呼び方は中国地方に多く、島根県のほか広島県も同じくマンサクが一般的。鳥取県ではマンサクであったり、引きが強いことからマンリキ(万力)というんだって。
文献によればシイラは17世紀頃、塩漬けで利用されていたとの記載が残ってます。干したシイラや塩漬けシイラは保存食として山間部に流通していたのです。また、この頃は大量に日本近海へ回遊していたことが分かりました。それで当時の長崎では九万疋(クマビキ)呼び、現在でも名残ある地方がございます。
日本人は奈良・平安の頃より言霊(ことだま)を信仰してきた民族ですし、九万疋や万匹(マンビキ)から豊作にちなんだ万作へ変遷したとしても不思議じゃないですね!
写真のマンサクをご覧ください。全体的に黄色が鮮やかでしょ。これは鮮度の良いサインなんだよと教えてもらいました。マンサクはビタの状態でこの色を表すのです。泳いでいる時は青銀色、船上にあがった時は金色、時間がたつと黒色に変化します。そしてお腹を上に箱立てされてるでしょ。これは鮮度の良しあしを腹部で見立てるため、漁師さん自慢のマンサクはここをアピールできるように並べるのだと言われました。活きがよく、これから脂がのるマンサクは刺身で美味しいのだよと!よく見かけるレシピはフライやムニエルなんだけど、刺身で食べられるなんて素敵。
マンサクのとなりに
定置網のコシナガマグロも揚がってますよ~。市場の魚と共に季節が変わってるんだと感じますね。
橋村修(2003年).亜熱帯性回遊魚シイラの利用をめぐる地域性と時代性.国立民族学博物館調査報告 48 199-223