魚たちのゆりかごとは(長門の海環境教育編)


こんにちは、仙崎市場は15日から18日までお盆休みにでした。ということで今日のお話の主役はお魚たちにとってのゆりかごであり、あるいは大海横断鉄道さながら洋上を流れるもの。さて、なんだかわかりますか。答えはしばらく残しておきます。

ところでお魚たちは卵から産まれてどうのように育ってゆくのでしょうね。ヒトと異なる部分でもっとも大きな点は…卵から産まれるってことじゃないですよ(笑)…魚の中には育ってゆく過程で場所を変遷してゆくものが多いってことなのです。

魚はさまざまな場所で産まれますが、ずっとその場所にいるわけではありません。稚魚から幼魚になると食べるえさの嗜好も変わり、水温や塩分濃度に好みも出てきますが、これはヒトも同じ。ただ、ヒトは親が傍についてしばらく供に歩みますが、回遊魚は子供たちだけで泳いでゆかなければなりません。

ずいぶん前、カルガモの親子がアスファルトの道路を渡る姿にどきどきしたものですけれど、稚魚たちは彼らだけでハイウェイを走ってるんですね。硬いボディをもっているわけじゃなく、食物連鎖のアッパークラスから常に狙われてしまいます。ディズニー映画『トイストーリー2』で道路を横切るアンディーのおもちゃたちは、パイロンを被った怪しいスタイルをしてました。稚魚は貝殻を背負って生活する蟹のような手足をもちませんから、何かに頼りたいところです。

すべての稚魚がこれにありつくわけではありませんが、彼らにとってのゆりかごであり隠れ家となってくれるのが、冒頭の回答、「流れ藻」。流れ藻につく魚で有名なものは、「モジャコ(藻雑魚)」と呼ばれるブリの幼魚。モジャコは養殖ハマチ、ブリ産業が捜し求めています。では、次から流れ藻の正体を示してゆきましょう。

現在、一部の地域で海を守るために森を増やそう、河川の埋立を元に戻そうという動きがみられます。ここでは多くの文字数を割きませんが、その目的のひとつが漁場の整備。河川が海と接する周辺やその沿岸域に山からの土砂が堆積し、藻場を失っている側面を危惧するものです。業界の言葉で、『磯焼け』といわれます。これは陸地からの環境要因だけじゃないことをはじめにお断りしておきますが、磯から藻がなくなると貝類が育たないばかりじゃなく、稚魚の居場所も失います。

日本海沿岸域を漂う流れ藻は中国からやってきたとする見解もありますが、近年の報告によれば近隣沿岸域の岩礁上に分布する海藻が自然に剥がれたり切れたりして流出したものじゃないかと言われ、起源の特定は定かになっていません。いずれにしても、流れ藻の正体は主にホンダワラ科の海藻、中でも春から夏にかけての流れ藻は「アカモク」と呼ばれる種類です。

アカモクはモヅク、ヒジキやカジメといった仙崎市場で販売される海藻ではありません。当地では食卓で馴染のない海藻なんですけど、熱湯をかけると鮮やかな緑色に変わり、ねばっととろみがついて美味しいんですよ。東部北海道を除く国内ほとんどの沿岸に分布する海藻で、島根県では「じんばそう(神馬草)」と呼ぶそうですが、アカモクによく似た別種かもしれません。

アカモクは1年生の海藻です。通常は秋から冬にかけて成長するため、この時期の流れ藻は少ないのだと思われます。大きくなると数メートルに達するそうですから、春から秋にかけての沿岸域では強い波に揉まれたりして切れたアカモクが流れ藻となってゆくのでしょうね。

流れ藻の素敵な写真を見つけました。興味があれば↓のリンク先をご覧ください。
Field Note- 屋久島の海と川の記録 -harazaki.net

さて、このアカモクはじめとした藻場は、水産資源開発の側面からとっても重要なものと思いませんか。これは各地の水産業界から伝わってくるものです。地元長門に校舎を構える山口県立水産高等学校、大津緑洋高校の水産科学部は数年前から藻場再生に着目し、地元関係者と共に活動を進めてきた「ふるさとながとの海洋緑化プロジェクト」は全国で高い評価を得ました。活動は現在も受け継がれており、その研究成果報告が優秀とされ、今年12月に高知県で開催される全国大会に出場が決まったのが先月のことです。磯焼けの解消を目指し、「シードリングストーン」を使った研究が現在も行われています。

水産業界では産卵用の人工藻を開発している会社がありますけれど、養殖技術が進捗し、量産化に成功した海藻類から発生した「人工流れ藻」の漂う潮目を見ることができるかもしれませんね。

参考資料
河野 光久,齋藤 秀郎(2004年).山口県日本海沿岸域に出現する春季の流れ藻とそれに付随する稚魚.山口県水産研究センター研報 2 95-99
安部 豊(2011年).高等学校における水圏環境教育実践:ながとふるさと緑化プロジェクト.水圏環境教育研究誌 4(1) 115-127
八谷光介,西垣友和,道家章生,和田洋藏(2005年).若狭湾西部海域で採集された流れ藻の種組成.京都府立海洋センター研究報告 27 13-17

 

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